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2006年3月14日

トルストイの映像

友人から紹介された本が絶版で買えなかったので、久しぶりに地元の図書館へ行った。しかしいつもの癖で、違う本を探したり開いたりしてしまう。そうして、館内をぐるーと巡っているうちに、DVDのコーナーでNHKの「映像の世紀」を目にし、「これ全部見てみるか」と思った。

テレビで放映されていたときはほとんど見なかったが、加古隆のテーマ曲「パリは燃えているか」の憂いと悲しみとノスタルジーに満ちた音楽が、とても印象的だったのを覚えている。

ということで、第1集「20世紀の幕開け」を見た。心に残るシーンは、トルストイがモスクワの駅で、群集に歓呼のなか送られるところ。小説家がいわば大衆の精神的指導者だった証左なわけで、現代人にとってはちょっと想像を超えている。トルストイが稀有な作家だったいうことだろうか?

それもあるだろうが、それ以上に、活字が多大な影響力を持ち得ていたのだろう。なにせ、トルストイの晩年になって、映像技術はようやく緒に就いたばかりだった。人々は、「読む」しかなかった。それに、映像が普及していないのだから、その人を見るには直接会うしかなかった。映像で映し出されているモスクワ市民の心はきっと、「この千載一遇のチャンスを逃してなるものか」という切実なるものだったろう。今の僕らが、誰か著名人をひと目見たいという気分とは、おそらく天地雲泥の差があると思う。

ナレーションによると、群集のなかに「もう百年生きてください」と叫んだ者がいたという。人々が目覚めはじめ、かつ映像がなかったこの時代、トルストイは知識人として、もしかしたらもっとも幸福な時代を生きたのかもしれない。

<追記>
DVDの上記の部分を見返してみると、映像がなかったこの時代、「活字文化を担った作家が大衆のヒーローだった」とナレーションは言っているが、トルストイの場合、ヒーローなどという言葉では片付けられない、なにかもっと深い精神的な結びつきを、大衆は感じていたのではないかと思う。

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